発展途上のボクらとしては 〜蛇足
 


  *お兄さんたちから逆襲編。
   いたるところ 『R-18』です、ご容赦ください。





     1



幅のある窓枠の框に少しほど背中を丸めて無造作に腰掛け、
何ということもなくの無防備に窓の外を見やる横顔も。
頭上からの木洩れ日に目許を射られたか、
翳した手の下で眩し気に目を細めるところも。
記憶の中にそういう姿の備蓄が皆無だったからだろか、
こちらを見やって微笑う顔へと変わらぬくらい、ついつい声もなく見惚れてしまう。
きっちりと形式ばった所作をなぞらずとも、それは綺麗で様になる人で。
箸を片手にみそ汁をすする姿さえ、そのまま絵にしても遜色がなさそうだなと思っておれば、

「? どうしたの?」
「…いえ。」

余りに見つめすぎたかきょとんと眼を見張り、こちらを見やってこられる。
不躾には違いなく不審がられてもしょうがない、
何でもないですと誤魔化したが、相手は途轍もなく聡い人だけに、

「…まさか。」
「いやあの。」
「賞味期限知れてる豆腐使ったの?」

多少、そうだな2,3日なら平気だよと笑われるので、
違いますと椅子から立ち上がって否定をし。
ムキになったのへは驚いたか、“冗談だってば”と笑う太宰さんへ、

「マナー、というのと違って、その、綺麗に振る舞うお人だなぁと。」

正直なところをごにょりと告げる。
こんな些細なことだって、隠しごとなんて出来はしないのだと、
微妙な敗北感を覚えておれば、

「ああ、私のはそうした方が無駄がないからって教え込まれたってだけだよ。」

あくまでも効率よくってのが優先でね、
汚れた口を拭ったり箸の先から落っことしたりするのって煩わしいじゃない、と。
別段 洒落めかしてのことじゃあないさと笑ってしまわれる。

『芥川ってすごい綺麗に食べるよな。』
『太宰さんに叩き込まれただけだ。』

 貴様だって箸遣いを中原さんに教わったのだろう?
 うんvv でもそれ以外はてんでダメ。

大口開いておにぎりに食いつくとことか、頬一杯に食べ物詰め込むところとか、
ギャップが凄いって言われたなんて、
そりゃああっけらかんと奴は笑った。
孤児院でそれはひどい虐待に遭ってたと聞くが、
その前向きで天真爛漫なところはよほどに規格外だったのか、少しも歪んではなくって。
いやいやさすがに恥ずかしいなと焦ることだってあるさなんて言うけれど、
そんな要らぬ小心さ、この自分へは見せなくなったし、そうであるのが心地いい。
言ってやる気はないけれど、と思っておれば

『あの人って言わなくなったね。』
『…そうか?』

敢えて誰のことかは互いに言わぬまま、
其れで通じる心地よさにか、それとも芥川の変化にか、
うんと頷き、嬉しそうにふかし饅頭に食らいつく虎の子で。
ああほら汁がこぼれてるとハンカチを出して世話を焼きつつ、
気づいてなかった自分の変化に少しだけたじろいだ。








 「…。…。ん。/////////////」

当初は異物感に不安を感じて、ついつい息が詰まったが、
ぐいと押し込まれる強引さにも少しだけ慣れて。

 「ごめん、我慢できなくなった。」
 「あ。…………は、い。/////////」

律儀な子、と苦笑交じりの掠れた声がして、
いちいち返事をしたことへだろう、髪をくしゃっと大きな手で鷲掴まれての撫でられる。
背後から抱えられる格好で寝台に伏しているので顔までは見えないが、それは別に構わなかった。
欲にまみれている貌なんて見られたくはなかろうし、こちらだってなんだか怖い。
獣のような貌でも何にも感じていないような貌でも、きっと自分も辛いだろうとぼんやりと思った。

「あ。あっ、あ、んう、……んっ。んっ、あ。////////////」

くるりと隙間なく掻い込まれたまま揺すぶられ、
堪えが利かなくて声が出た。
こんなか細い声が出せるとはと恥ずかしくなって敷布を噛みしめれば、
ぐうと声が詰まったことで気づかれたか、

「だ〜め。」

片方だけ離した手を伸ばしてきて
胸元から首、顎先と、撫でるよに するする上がってきたそのまま、
器用にもこちらの歯の間へ指を差し込む。

「聞かせておくれよ。」
「〜〜〜〜〜っ。////////」

噛みつくわけにもいかず、
ところどこで覗く意地悪は相変わらずだと、
くっと息を詰まらせて いやいやとかぶりを振れば、

「だっ、て、私しか、聞けな、い特権だものっ。」
「〜〜〜〜〜。//////////」

それを言うなら、息を弾ませながらの貴方の声が聞けるのは自分の特権なのかなぁと、
言いはしなかったけど頬が緩んでしまい、

 「あ。んぁ、……あっ。」
 「そう。いい子だね。」

低められた、濡れて聞こえる声に煽られ、
そんなところにどんな触覚があるものか
奥をぐいと擦られて何でぞくりと愉悦の波が起きるのかも相変わらず判らぬまま。
それでも、この人の腕にくるみ込まれているというだけで、
触れている肌や強く掻い込まれている拘束から 得も言われぬ至福が込み上げて来て、

 「〜〜〜〜〜あ。//////////」

肢体が一気に引き攣れるような、
熱くて痺れるような感覚の奔流にもみくちゃにされ、
逃げ出そうと身を起こした腕を捕まえられて封じられ。

 「………だよ、いい子だ。」
 「〜〜〜〜〜〜っ。///////////」

耳朶へと接吻されながら、飛び切りの甘言ささやかれ、
頭の中までとろかされてしまい、結局、他はどうでもよくなる芥川だった。





     ◇◇




「敦くんとしては、そういうことを相談出来る人だって、
 キミをそういう対象だと思っていることが凄いなって思えてね。」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ。//////////」

ほんの昨日の与太話、
何でどうしてかこの人が知っており。
名人の手になる彫像に奇跡で魂がこもったかのような、
淑として端正な、そりゃあ整ったお顔を悪戯っぽくほころばせ、
無知な子供からの“どうして?”って容赦ないから災難だったねぇと苦笑でくくられたものの、
聞かれた側はそれどころじゃあない。
さっきまでのあれやこれやの甘い余韻も吹っ飛ばし、
ただただ恥ずかしくって堪らぬと、両手で顔を覆っておれば、
こらこら隠さないのと手際よく手を外され。
それでも恥ずかしいと いやいや再びでかぶりを振れば、
しょうがないなと引き寄せられて。
頼もしい胸板へ頬をつけるよな格好、その懐へ今一度掻い込まれる。

「だってキミの口利きは、
 親しいからこそのそれへ変わったとはいえ、相変わらず結構辛辣なのに。」

いくら事情が通じている間柄だとはいえ、
下らぬと一蹴されるかも知れないと怯まず、
ただでさえ人には話しにくいことだろうにさと。
くつくつ笑った太宰だが、

 「………もしかして、相談されたかったですか?」
 「う〜〜〜ん、ちょっとはね。」

だってあの子は私にとっても部下っていうか後輩ってゆうかだし、
恋人には言いにくいことなら 尚更 お父さんに話してくれたって、と。
いつぞやに見たことがあるよな拗ね方をする。(罪なほどに甘い 8、参照)

「まあ、あの中也が一旦決めたことをそうそう撤回するとも思えないってところは
 私も君と同意見だったけどね。」

駄々はさすがに演技だったか、しみじみとした声でそうと付け足してから、

 「……私もそうであった方がよかったかな?」

そんな一言をぼそりと呟いたのは、もしかせずとも…とそれこそ察しがついて。

 「何か撤回なさいましたか?」
 「おや、そんな意地悪を覚えたのかい?」

私の影響かい? だったら正さねばいけないなぁと、そうと言う割に声音は甘いまま。
いけないことを言うのはこの口かと言いたげに、唇を指先でなぞってくすぐる師なのへ、

「あの頃だって大事にされておりました。」
「だからそれは違うってば。」

殴ったり素っ気なくしたりしないことを言っているのじゃあなくてだねと、
ちょっとばかり声を張ったのへ、

「それも隠されないお気持ちのままなのでしょう?」
「う…。////」

頼ってほしい、甘えてほしいと。
自分は他の誰でもない貴方と幸せになりたいと告げたのへ、
それこそ慣れないことだろにそれが望みならと頑張っておいで。

 「う〜〜〜。////」

判っててはぐらかしたねと、二の句が継げなくなる太宰なんていう
それは希少なものを目撃出来たこと、ほくほくと胸の底へと仕舞って。
照れ隠しだろうぎゅうぎゅうと抱き込まれるのに素直に応じ、
愛しい人の温みにくるまれた、黒獣の主様だったりしたのである。





     to be continued. (18.02.17.〜)




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 *此処と次のお話は そういう絡みがちょろちょろする
  “お兄さんたちの逆襲”の話です。ご容赦を。
  つか、勝手に盗聴してあわあわしただけじゃんって順番ですけどもね。(笑)
  随分とキャラ崩壊していてすみません。
  そもそも、悶々とした話が続いていたので、よし緩めようと思いはしておりましたが、 
  此処まで緩み切ってしまうとは思いも寄りませんでした。
  今週に入って急に暖かくなったのがいかんのよ、チョコも結構溶けたんじゃあ。
  次は本筋、中敦篇です。
  そういや久々かもなぁ。太宰さんと芥川くんの話ばっかだったしなぁ。(おいおい)